Heaven or Las Vegas
- アーティスト: Cocteau Twins
- 出版社/メーカー: 4ad / Ada
- 発売日: 2007/04/09
- メディア: CD
- クリック: 3回
- この商品を含むブログ (42件) を見る
曲目
原題
Heaven or Las Vegas
- Cherry-Coloured Funk
- Pitch the Baby
- Iceblink Luck
- Fifty-Fifty Clown
- Heaven Or Las Vegas
- I Wear Your Ring
- Fotzepolitic
- Wolf In The Breast
- Road, River, And Rail
- Frou-Frou Foxes In Midsummer Fires
拙訳
天国それともラスベガス
- 桜色の弱虫さん
- 赤ん坊を揺すって
- 氷映の幸運
- 五分五分の道化
- 天国それともラスラスベガス
- あなたの指輪をはめて
- フォツェポリティク
- 胸に抱いた狼
- 道、川、そして線路
- 真夏の炎に焼かれる女狐たち
解説
概要
1990年9月に発表されアルバム第6作。
個人的には、はじめて発売と同時に購入したCocteau Twinsのアルバム。
聴いてみた印象は強烈だった。
これはすごいと感動していたら、みるみるうちにヒットし、全米ツアーも好調で、CTは一躍世界的に有名なバンドになった。
知っているだけでも遊佐未森と原田知世がこのアルバムを推している。
アメリカの複数の大物ミュージシャンがこのバンドのファンになったきっかけも、このアルバムであることが多いのではないかと思う。
印象としては、これまでのアルバムの中でもっとも明るくきらびやかで、また過度に重苦しい曲がない。誰にでも聴きやすい作品になっていると思う。
それであっても、彼ら独特の強烈な個性と、謎と、そして理不尽さも健在だ。アルバムのタイトルからして意味がよく分からないし、曲のタイトルはさらに分からないものがある。Lizのヴォーカルはいくらか聞き取りやすくなっているが、それでも不明な箇所が少なくなく、ネイティブの歌詞サイトの間でも諸説あった。
もはやバンドの代表作というより人類共有の財産と言うべき素晴らしいアルバムだが、これほどの作品が生まれた背景は、バンドを巡る色々な運気が揃っていい方向に作用したということなのだろうと思う。
まず、この作品から彼ら独自のスタジオ、September Sound Studioが稼働している。テムズ川の河畔にあるそこは、彼らが入る前はピート・タウンゼントのプライベートスタジオだったという(Sound & Recording, 1993.9.)。
彼らは美しい風景の中にある自分のスタジオでじっくり音楽に取り組むことができた。
そして、この作品収録中にElizabethとRobinの間に女の子、LucyBelleが誕生している。特にLizにとってその人生の一大イベントがこの作品に大きく影響していることは十分考えられる。
もっとも、収録曲の順番と録音された順番は普通一致しないので「Lizの出産をはさんでアルバムの前半と後半で傾向が違う」 という批評はズレていると思うが。
その後のゴタゴタまで考えると、このアルバムの制作時期に、バンドのメンバーの関係が一番良好だったのではないのかと推測される。バンドだけでなく、4ADや、そのほか作品制作に関わる多くの人間関係がうまくいっていたのではないか。
"Heaven or Las Vegas"というタイトルが面白い。
アメリカ進出を目論んでラスベガスの地名を出したというわけではないだろうけど、結果的にアメリカで大ヒットした。作品の完成度を考えるとアメリカの地名がなくてもヒットしただろう。一方、ラスベガスでのコンサートは伝説的なものだったと噂に聞く。
天国という抽象的な存在とラスベガスという具体的な地名のコントラストがまず面白い。基本的には'heaven or hell'のパロディで、そうするとラスベガスは地獄に相当するようだ。
しかし接続詞orは、「すなわち」とか「換言すれば」というような意味で使われることもあり、この短いタイトルでは「それとも」で使われているのかそうでないのか はっきりと分からない。「ラスベガスは天国だ」という見方もできる。なので、「ラスベガスは天国でもあるし地獄でもある」という 二重の意味付けまで勘ぐることができる。ギャンブラーの射幸心と大負けした後の虚無感とを絶妙に表しているかもしれない。
各曲紹介
'Cherry-Coloured Funk'
'Colour'がしっかり英国調だというのは置くとして、この曲もどうも歌詞が聞き取れないが、何やら'good news'が飛び込んできて目がぎょっとなったりしているような気がする。それで'Cherry-Coloured Funk'=「桜色の臆病者」(直訳)は何かと考えるが、生まれたばかりの赤ん坊、つまりLucyのことではないかという気がする。新生児だとすると色も雰囲気もまさにそう。
それにしても、これほど聞いていて心が高揚するコード進行を他に知らない。
'Pitch the Baby'
赤ん坊を揺すって(あやしてちょうだい)というタイトルで、まさに子供の歌。
あんまり子供を育んでゆくような優しさに満ちた曲ではないけど(子育ては当事者にはおお仕事ですからね)。
曲全体を通してシーケンサーで出してる音が流れている。
'Iceblink Luck'
このアルバムの中では,'Heaven Or Las Vegas'と双璧をなす名曲。この曲を表題曲とするシングルも出ている。
軽快で個性的なメロディが非常にインパクトがある。 中盤のベースプレイも見逃せない。
一方,タイトルの意味する所、そして歌詞についてはまたも意味不明だ。「間に合ってふたたび幸せだ」とか 「君達は二人とも音楽科として生まれた。私を治療してくれてありがとう」など、ごく一部は分かり易く聞き取れるのだが、途中は「君はエリコのマッチだ」なのか「君はチェリー炭坑のマッチだ」なのか分からないし(下記参照)、どっちにしても後ろの「それはこの古びた気の狂った館を焼き払う」につながったとして、一体何が言いたいのかまるで分からない。
'iceblink'は調べるとオフィシャルサイトの用語集ではこうだ。
iceblink:名詞、1.氷原の上空の黄色っぽいぎらぎらした光。2.海岸の氷の絶壁。
リーダーズ英和辞典では;
氷映(ひようえい)《氷原の反映で水平線近くの空が明るく見えること》;《Greenland などの海岸の》氷の崖。
これを見てタイトルの訳は上記のようになった。しかし具体的にどういう意味なのかは相変わらず不明。氷映というのは縁起がいいものなのだろうか。それとも溶けてなくなってゆく氷のようにはかない、あるいは冷ややかな、そういった皮肉な意味の幸運ということなのだろうか。
さて、ネット上の歌詞サイトでは'You are the match of Jericho'というフレーズがあった。ネイティブの耳だからうかつに否定できないとしても、全部で3回出てくるこのフレーズの最後が、やはり'coal'じゃないかという気がしてならない。
それで'You are the match of Cherry Coal'という案も出せる。'Cherry Coal'とは何かだけど,イリノイ州にチェリー炭坑とういのが本当にあったこと知った。いかがなものだろうか。
'Fifty-Fifty Clown'
ヘッドホンで聞くと、サビのところでLizの声とRobinのギターが互いに180°の 角度をもって頭のまわりをぐるぐると回っている。
音としてはキーボードが入ってる。そして冒頭からずっとシーケンサーの打ち込の音が流れてる。これをベースの代わりしているようだ。
'Heaven Or Las Vegas'
きらびやかで軽快でスケール感に満ちた表題曲。メロディはきわめて個性的で、かつ美しい。
大変魅力的なメロディなのだが、そこに乗っている歌詞は英語とはいえわざと聞き取りにくく歌われているようだ。やはりネイティブの人の間で歌詞に諸説ある。ただ唯一、'heaven or Las Vegas'というフレーズだけはとても分かり易い。
タイトルをどう日本語にするかは微妙だ。日本コロムビア盤の邦題で意味も大筋外していないと思うが、途中に中点やカンマが入ってしまうと「へヴぃのあらすヴぃが〜す」というスピード感が失われてしまう。難しい。
歌詞としては'He's a hustler'というのがあるのは確からしいので、実際にラスベガスが舞台になっているようではある。「賭博師の憂鬱」とかいった邦題が内容的に合うのかもしれない。謎めいてなくてつまんないけど。
'I Ware Your Ring'
どうも'man is so useful'または'men are so useful'というフレーズが あるようだ。この哀愁漂う曲の中で、「男ってけっこう使える」とかいう歌詞はどういう文脈で出てくるのだろう。
'Fotzepolitic'
オフィシャルサイトの用語集によると「ドイツ語で、逐語的には'cunt politics'」とある。ちょっと訳して紹介するのはためらわれる(苦笑)。
ドイツで売ってる分もタイトルはこれだろうか(ボボ・ブラジルの九州巡業じゃないので改変はないだろう)。
'Wolf In The Breast'
シンプルでけっこう明るいメロディがいい。何か日本語の歌詞をつけたくなってしまう。それで女の子に歌ってもらうとちょっといい作品ができそうだ(もちろん私でなくちゃんとした作詞家が作詞をした場合)。CDにして販売しようとしたら、版権でやたら高くつくことになりそうだが。
意味としては狼の子供を胸に抱いている文字通りの光景をイメージしたが、用語集によると、「胸の中の抜け目のない計画」とのこととある。
'Road, River, And Rail'
Cocteau Twinsとしては珍しい,というか以前にはなかった雰囲気のバラード。Lizが多重録音でなく、しかも裏声に絶妙にかする巧みな声で切々と歌う。旅情に満ちた泣ける曲。意味は'road, river, and rail'のところしか分からないのだけれど。
ギターのノイズとベースがヴォーカルに絶妙に絡み合うところもいい。
日本語だと「道、川、線路」といえば物流の3大ルートだけど(あと海運がある)、英語だと奇しくも頭文字がRで揃うというのがいい。
'Frou-Frou Foxes In Midsummer Fires'
体調の悪いときに久しぶりに聞いたら震えが走って涙が滲んだ。この曲もやはり素晴らしい。
冒頭部分などメロディ前半、シンプルなピアノに合わせてLizが切々と歌う部分にギターのノイズがかなり長く乗っている。これはフィードバック奏法とのこと。
スタジオのモニター(NS1らしい)にギターをくっつけ演奏したのではないかと言われる。自前のスタジオだからいいようなものの、よそでやったらエンジニアに殺されかねないそうで。